卒業式の着物

こんにちは。今回は卒業式の着物についてお話ししたいと思います。

卒業式の着物

3月は卒業式の季節。保育園、幼稚園をはじめ、小学校、中学校、高校、大学と全国各地の学校で卒業式が行われます。

その中で、制服のない大学の卒業式では、スーツと合わせて着物と袴姿で出席する女性が多いようです。

赤やピンク、クリーム色などの華やかな色の着物と、紺や深緑色の落ち着いた色の袴の組み合わせや、黒や紫など落ち着いた色の着物とえんじ色の袴の組み合わせなど・・・着物の柄や袖の長さも様々です。いかにも昭和の女学生さん、といった雰囲気の可愛らしい袴姿の女性は、見ていて楽しいですね。その出で立ちは、昔ヒットした、女学生の袴姿が象徴的な漫画「はいからさんが通る」の世界のような、ノスタルジックな魅力を感じさせてくれます。

成人式に着物を着るのと同じく、卒業式に着物と袴を着るのも今や定番となっていますが、その背景はどんなものだったのでしょうか?

歴史を溯ると?

もともと袴は、古墳時代から男性の衣服として着られていました。そして奈良時代・平安時代になると、宮廷に仕える女性たちが十二単の一部として袴を身に付けるようになりました。

そんな宮中の女官服が由来となり、女性が卒業式のときのスタイルで袴を着るようになったのは、明治時代に入ってからといわれています。着物の裾さばきを気にすることなく動きやすい上、優美さと礼容を兼ね備えているという点から、女学校の制服に取り入れられたのが始まりでした。

最初は男性用の袴を着ていたようですが、学習院女子部の前身である「華族女学校」の創設者である下田歌子という人によって、女性用の袴が考案され、正式に女学校の制服として定着していったようです。
その袴は「行灯袴(あんどんばかま)」「女袴」と呼ばれ、優美さと機能性に富んだこの袴が、学業の場にふさわしい服装として普及していきました。
当時は女性の進学率が低く、袴姿の女学生は特権階級として多くの女性の憧れの的でした。そのため、普段着物が着られなくなった今でも、袴姿は「学生の制服」「女学生の象徴」という結びつきから、卒業式の礼装として着られるようになったといわれています。
教職員の方々も、巣立って行く生徒へのはなむけで、自分も特別な出で立ちで見送ってあげたいという意味合いで、袴姿で出席することがあります。

そんな袴に合わせる着物についても触れていきましょう。

袴に合わせる着物

袴に合わせる着物に特に決まりはなく、ご自分の好みやイメージに合わせて選んで問題ありません。
振袖、訪問着、付け下げ、色無地、小紋など。なんと喪服で着られる「黒紋付」も合わせることができます。宝塚音楽学校の卒業式には、この黒紋付と黒い袴を着るスタイルが定番となっています。
しかし、卒業式に出席する女性はだいたい未婚であるので、未婚女性の第一礼装である振袖を合わせることが多いです。
卒業式用の袴をレンタルすると、だいたい「二尺袖」や「小振袖」と呼ばれる、袖丈が約76cmの、短い振袖がセットになっているのが主流で、二尺袖を合わせると、軽やかで若々しい印象になります。
袖丈が二尺八寸五分、約108cmある中振袖は、袖丈が長い分柄の入った面積が多く、豪華な印象になります。
中振袖を合わせる場合は、袖丈が長い分引きずってしまったり踏んでしまったりしやすいので、立ち振る舞いに注意が必要です。

色や柄は?

着物の色や柄は様々ですが、袴の色は紺やえんじ、深緑など濃色の物が多いです。
明るい色味の着物に濃色の袴、または落ち着いた色味の着物に濃色の袴というのが定番で、まれに濃色の着物に薄紫やピンクなどの明るい色味の袴の組み合わせもあります。袴は無地が多いですが、中ほどから裾に掛けて小花柄などの小さい模様が入っている物もあります。

袴に合わせる履物は?

また、袴に合わせる履物ですが、普通の草履と合わせて、この袴姿に関してはブーツを合わせるのもOKとなっています。
これには明治時代に西洋文化が入ってきて、後期に革靴のブーツが発売されると、女学生がそれをいち早く取り入れ、袴とブーツと言う組み合わせを大流行させた背景があります。
ブーツを合わせる場合には、袴の丈を草履のときより短めにするのがバランスよく映るようです。

袴を着付ける際に気をつけることは?

袴を着付ける際には、通常の着物を着るときに必要な肌着、長襦袢などに加え、袴下に結ぶ帯として、浴衣の時に付けるような半幅帯が必要となります。レンタルで小物類も一式セットになっている場合は問題ないですが、自分の振袖などを持ち込んで着付けてもらう場合は準備が必要になることがありますので、事前に確認しましょう。

春の訪れと共にやってくる卒業式。春は出会いと別れの季節です。節目節目にそれらを体験することで、人はだんだんと大人になっていきます。
ご自分が卒業式を迎える方は、人生の一つの節目をお気に入りの袴姿でめいっぱい楽しんでください。

また娘さん、お孫さんが卒業式で一緒に式に出席される方は、ご自分もそれに見合った着物を着たり、きちんと身なりを整えたりして、臨みたいものです。
当人だけ出席の場合にも、お子さんやお孫さんが家を出るときは、ぜひ笑顔で送り出してあげてくださいね。

学生の皆さんが、美しい袴姿で思い出に残る素敵な卒業式を迎えられますように。
そして当日が、ご家族の大切な思い出の1ページになりますことを願っています。