着物のクリーニング(悉皆)について

こんにちは。今回は着物のお手入れのカテゴリーの中から、クリーニングも含む加工全般をいう、「悉皆」についてお話ししたいと思います。

悉皆とは

様々なシーンで着物を着ていると、どんなに気を付けていても、うっかり食べ物をこぼして汚してしまったり、汗をかいてシミができてしまったりすることがあります。

また、しばらく仕舞ったままだった着物にカビが生えていたり、母親のお下がりの着物に袖を通そうとしたら染めが色あせてしまっていたりすることもありますよね。

そういった時に、「悉皆」が頼りになります。

「悉皆」は、日常生活を送る上では聞き慣れない言葉だと思います。

「しっかい」と読み、「残らず。すっかり。全部」という意味です。

丸洗いから染み抜き、洗い張り(着物をほどいて反物にしてから洗う方法)といったクリーニングはもちろん、染め替え、仕立て、紋の加工や金箔の修復など、着物に関するありとあらゆる加工作業をまとめて「悉皆」といいます。

そして、呉服屋さんの中にはこの悉皆を専門とした職人さんを置いているところも多くあり、「悉皆屋」と呼ばれる百年以上にもわたり悉皆業を受け継いでいる専門のお店も存在しています。

昔から着物は汚れたら洗い、ほつれなどは修復し、着られなくなればサイズ直しなどを繰り返して親から子へ受け継いで大事にされてきたのですね。

今回はその内容について詳しく見ていきましょう。

悉皆の種類

次から悉皆の主な種類をご紹介していきます。

丸洗い

着物のドライクリーニングに当たり、専用の有機溶剤を使い、水を使用しないで洗います。皮脂や口紅などの油脂性の汚れを落とすのに効果的です。衣替えの時期、オフシーズンの着物をタンスにしまう前などに行うことが望ましいです。

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汗洗い(汗抜き)

汗で汚れた部分に細かい霧状の水を吹きかけ、汗の塩分を浮かせて洗い流します。水溶性の汚れは丸洗いでは落ちないので、汗洗いと丸洗いとセットですることを勧めているところがほとんどです。

染み抜き

醤油や血液などの「吸着」タイプ、ファンデーションなどの「付着」タイプ、ボールペンのインクやワインなどの「染着」タイプ、経年による黄ばみとなる「変色」など種類はさまざまですが、染みの性質を専門の職人が鑑定し、タイプ別に適切な染み抜きを施してくれます。もし、染み抜きによって絵柄などが薄れてしまった場合、色を入れたり描き足したりなどの修復作業も行います。

カビ落とし

湿気によりできてしまったカビを丸洗いや染み抜き作業で落とし、漂白により色が薄くなってしまった部分には色足しなどの布地に必要な修復を行います。

洗い張り

着物をほどき、反物の状態にしてから水洗いを行います。その後、湯のし作業をして幅を整えます。全体に水を通すので汚れが落ちやすく、「光沢」「風合い」がある程度よみがえります。一度着物をほどくので、再度「仕立て」が必要になります。

仕立て

洗い張り後、元の状態に戻す場合の仕立てと、持っている反物を着物にしてもらう場合の仕立てがあります。人から譲られた着物の寸法直しや、年齢を重ね胴裏、八掛の色を渋い色に変えたいなどの要望にも応えてくれます。

部分直し

裄丈や袖丈、身幅など、部分的な寸法直しを行います。

紋加工

紋なしの着物に紋を入れたり、既に入っている紋を違う紋に入れ替えたりします。

金箔修復

経年によってはがれてしまった金箔を貼り直したり、変色してしまった金箔に金加工をしたりして修復する作業です。

柄足し

身幅を広げたりなどをして柄のつなぎ目が切れてしまった場合などに、出来上がりに合わせて柄を描き足します。また、もともとの着物をゴージャスにする目的で柄足しや刺繍などを施す場合もあります。

染め替え

白地の着物を好きな色に染めたり、もともとの着物の色が派手になってしまった場合に落ち着いた色に染め替えたりする作業です。

着物の柄はそのままに、地色だけを染め替えるやり方もあります。

染め替えにより、経年で色やけしてしまった着物をよみがえらせることもできます。

いかがでしたでしょうか。「悉皆」の主な種類と行程を詳しくご紹介してきました。

こうやって見ると、1枚の着物にたくさんの可能性があるのだなあと感じます。寸法を直せば違う人に受け継ぐこともできるし、母や祖母の着物に染め替えなどのアレンジを加え、新しいものにすることもできます。

昔の人は物を大事にしてきたといいますが、何度もほどき、洗い、仕立て直して着物を大事に着て来たのだと思うと頭が下がる思いです。

そして、こういったリフォームやリメイクが可能なのが、洋服にはあまりない着物の良さだと思います。正絹などの素材がいいものを使っているものが多いこと、身頃、袖などのパーツが直線的に裁断されていること、代々受け継がれてきた丁寧な仕事により加工されていることなどが理由だと思います。

着物は1枚1枚、出来上がるまでにたくさんの職人の手を掛けて私たちの手元に来ている場合がほとんどです。

その技術と時間を粗末にしないためにも、汚れてしまった着物や着なくなってしまった着物はぜひ一度「悉皆」を検討してみてはいかがでしょうか。

悉皆屋さんに見てもらうことで、自分だけでは思いつかなかった着物の新しい姿を提案してくださったりして、もっとおしゃれの幅が広がると思います。

汚れを落とすクリーニング、今までと違うものに変化させる染め替えなどメニューは様々ですが、その出来上がりを見て、また専門の職人さんの熟練した技に驚くはずです。

困ったときにいろいろな相談ができる、ご自分のおなじみの悉皆屋さんを作っておくのも、これからの着物とのお付き合いの中でとてもいいことですね。

着物を大事にしていくというのは、着物を作り上げる技術を大事にすることだと思います。

ぜひ一度、ご自分のお手持ちの着物を見直してみてくださいね。