着物のクリーニングのプロにお聞きしました
関口さん(きはだや)
新潟県十日町の悉皆屋です。
着物の「丸洗い」とは
「丸洗い」「生洗い」「京洗い」と様々な呼び方がありますが、いずれも専用の石油系溶剤を使用して洗う方法です。
ここでは「丸洗い」に統一したいと思います。
丸洗いは、着物全体を専用の溶剤を使用して洗う方法です。
一般的なドライクリーニングに近いものですが、着物専用に調整された工程が用いられます。
水を使わずに行うため、シルクなど水に弱い素材でも安全に汚れを落とせます。汗や油性の汚れ(皮脂や化粧品など)を効果的に落とします。
なお、汗などによる水溶性の汚れを除去するためのクリーニングは「汗抜き」などと呼ばれ、落としたい汚れの内容によって利用するクリーニングメニューが異なってきます。
丸洗いの工程
それでは、どのようなステップで丸洗いされるのか見てみましょう。
1. 事前チェック(検品)
まず、クリーニング店はお客様から預かったきものを詳しく検査します。
ここで特に確認するのは、汚れやシミの場所、素材の種類、装飾の有無、過去のクリーニング履歴などです。これらの情報を基に、きものの状態に合わせた最適なクリーニング方法を決定します。
染めのきものなどは金駒などの糸を使ってあったり、刺繍のものも少なくありません。
それらは溶剤で傷まないかも検品します。
中には生地が弱っていて洗うと裂けてしまうなどの理由で洗えないものも出てきます。
2. しみ抜き(必要に応じて)
検品の段階で発見されたシミや汚れがある場合、丸洗いの前に「しみ抜き」を行います。
しみ抜きは、専用の溶剤や技術を使って汚れを丁寧に除去するプロセスで、特にシミが目立つ箇所や落としにくい汚れに対して施されます。
シミは時間が経つと落ちにくくなります。早めに対応した方がよいです。
また汚れの原因によって落とし方も変わってくるので、原因がわかるものについてはお伝えいただくとよいでしょう。
もう随分前になりますが、きはだやのきものをお求めいただいたお客様で「襟に水をこぼしたら、襟の袷の下から糸を染めた色が流れ出てきた」と持ち込まれた方がおられました。
そんなはずはありません。糸から流れた割にはシミも大きく、色も違います。万年筆のインクのように見えます。きものを解いてみると一番上だけが汚れていて袷の下はほとんど汚れていませんでした。恐らく何かをつけたのだろうけれど何らかの理由でそれを言えなかったのだろうと思いました。そうなると何のシミであったかを探すことからしないとなりません。手間も時間もかかってしまいます。
いつ何の汚れがついたのかはシミ抜きの工程では大変に重要なのです。
またリサイクルショップで買ったきものにはシミ抜きのできないものも少なくありません。 シミ抜きの盲点は目立ったシミを落とすと今まで目立たなかったシミが見えてくることがあります。これは実際に染み抜きをしてみないとわからないことでもあります。
3. 丸洗い(ドライクリーニング)
しみ抜きが終わった後、いよいよ「丸洗い」のプロセスに入ります。
きものの丸洗いは、通常の水洗いとは異なり、油性汚れやホコリを効果的に落とすドライクリーニングが主流です。
ドライクリーニングでは、石油系の溶剤を使ってきものを洗浄します。この溶剤は水を使わないため、きものの生地が縮んだり、色落ちしたりするリスクを抑えつつ、汚れをしっかり除去します。特に正絹やデリケートな素材で作られたきものには最適な洗浄方法です。
もちろん洗浄の溶剤や温度も普通の洋服を洗う時とは異なります。
きもの専業のクリーニングを行うことにはそれなりに理由があるのです。
4. 乾燥
丸洗いが完了した後、きものは専用の乾燥機または自然乾燥によって乾かされます。
乾燥は、きものの形を崩さないように慎重に行われ、過度な熱や時間のかけすぎによるダメージを防ぐために、低温で行うことが一般的です。
きはだやでは乾燥室を使った自然乾燥による乾燥を行います。このため一日に干すことができるきものの量が決まってきます。そのため、出来上がりまで少しお時間をいただきます。
5. 仕上げとアイロンがけ
乾燥が終わった後、きものは仕上げの工程に入ります。
この段階では、シワを伸ばし、きものの形を整えるためにアイロンがけが行われます。ただし、一般的なアイロンとは異なり、きもの専用の技術で、生地を傷めずに丁寧にプレスします。
きものは洋服と異なり畳むと平らになります。アイロンがけも一見容易そうに見えるのですが、一枚あたりの面積は洋服よりもはるかに大きく、きものならではの勘所があります。これもきもの専業ならではのノウハウなのです。
6. 最終チェックと梱包
仕上げが終わったら、最終的な検品を行います。
ここでは、シミがしっかり落ちているか、シワが残っていないか、破れやほつれがないかを確認し、問題がなければ梱包に移ります。きものは湿気やホコリを防ぐため、畳紙で包んで丁寧に梱包されます。
でも難しいもので、今まで目立っていたシミを落とすとそれまで気にならなかったシミが逆に目立ってくることがあります。でも、それを落としているといつまで経っても終わらなくなってしまうので、当初の承った加工までとなります。
最後に
丸洗いは、着用の回数や頻度にもよりますが、通常、年に1回程度が推奨されます。
一見きれいに見えていても皮脂のよごれや汗がきものにはついていることが多くあります。
大切なきものを長く着るためにも定期的なメンテナンスをお勧めいたします。
夏のきものは早めにお手入れ。
夏のきものは見ていて涼やかなので好む人も多いですが、どうしても汗をかく季節になります。夏のきものは細い糸に強撚をかけたものが少なくないので、長い時間汗がついた状態でいると糸が傷んでしまい、それが長期に渡ると生地が弱って裂けてしまうこともあります。
リサイクルのきものは夏物が少ないのはそうした汗による汚れや生地が傷みやすいことによってリサイクル市場に出回る良品が少ないからではないかと思います。
定期的な「丸洗い」や「汗抜き」、シミや汚れがついた場合は早めに「染み抜き」を依頼するなど適切なメンテナンスを施し、大切な着物を長持ちさせましょう。